春日

春日若宮社が20年目の式年造替を果たし、そのしめくくりに境内に白砂をまく「お砂持ち」を行うと聞いたから母と赴いた。

お砂持ちには一般人の参加もさせてもらえるので、春日大社の駐車場に車を停めて若宮に向かう。

母は先週の椿大神社の神山入道が岳登山中に転倒し、大腿内側に打撲を負っていた。整形外科によれば著明な骨折認めず、脳外科によればいまだ頭蓋内に著明な血腫なし。しかし歩くと痛みを伴う。20年ぶりの行事だから無理をおしても行きたいようだった。

春日の空は晴れていた。

風もなくやわらかな光が御蓋山の原生林に差し込んでいる。

藤の老木が伸びて、化石のような力強い体躯を見せている。

私たちは手渡されたちいさな袋に灰白色の砂礫を詰めに詰めて、改まった若宮社に案内される。

朱。というものがある。赤い塗料だが、まことの朱はこの春日大社の本殿と若宮社にしか塗られない。日本の中でここだけの朱塗りである。

まことの朱は上等の紅しょうがのような色調で、しかも深くて淡い。香りたつようなその赤色は邪気を払う。

私たちは新しい若宮社のまわりに砂を撒いた。

陽は暖かく、世は改まりいよいよ力を増す。

空谷子しるす

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