京から比叡に登るには雲母坂を行かねばならない。
花崗岩の風化した砂礫がざらざらする。木々は茂り、くぼんだ坂道を湿気と暑さの中に汗を垂らしながら登るしかない。
坂本のがわには日吉大社があり。東面した金大巌が太陽の光を浴びると鏡のように光るという。比叡山は古くからの信仰の山である。いかなる人間の歴史も、山の霊威を塗り隠すことはできない。いかなる人間の信仰も、山の霊威を置き換えることはできない。
山はやや涼しくなってくる。
都のそばの山であるのにこの勢いはどうだ。
比叡の山の上、西塔、さらには横川のほうまで行けば日枝の山のまことの姿が垣間見えるだろう。
なぜ全ての人は救われぬのか。
一切皆苦の果てに救いがあるのか。
救われるために苦しまねばならぬのか。
あたまの悪い私はどうしたらあたまが良くなるのか。
見よ蒼穹を突く大比叡を。真実は身近にありながらしかも一切がわからない。裏も表もないのに目に見えない。
賢い人は幸いである。祈らずにすむ。
空谷子しるす