さようなら

昨夜は当直だった
珍しく4時間ほど眠れた

開始の17時、
ひどい時は、ERフロントに患者が溢れている
昨日はそうではなかった。
カルテの救急一覧を見ていると、
ふと馴染みの名前が目に止まった。
あれ、どうしたの。
カルテを開ける。
Stanford A型急性大動脈解離、高齢でありBSC方針。
造影CTをみる。
これはだめだ。

彼女は私の外来で定期通院している患者であった。
2年ほど前、感染症科にいる頃に、感染性心内膜炎で入院し、以来外来で診ていた。
認知症がある。
それを発達障害のある息子が支えていた。
つい、先日、別れを告げた。
私が退職するからである。
息子は、「先生だけですよ、こんな風にいじってくれるのは。次の先生にもよろしくお伝えください」と寂しがってくれた。
彼女はよく笑ってくれた。
デイサービスでは麻雀を楽しんでいたらしい。
「雀士のたかこ言うたら、この界隈で知らんもんはおりませんもんなあ」
と私がふっかけると、彼女も、息子もゲラゲラ笑っていた。
私もその笑いをゲラゲラ笑っていた。

たまたまその時間は都合よくERに患者が少なかった。
私は2階に彼女を訪れた。
青息吐息の彼女は、私の呼びかけに応答できなかった。
A lineの血圧は50だった。
あの時と同じであった。
なりたが旅立った時のように、私は肩を撫でながら「大丈夫、大丈夫だからね」と連呼する以外能がなかった。
「雀士のたかこ言うたら、この界隈で知らんもんはおりませんもんなあ」
と私はふっかけてみた。
A lineの血圧は60に上昇した。

また一人、私と笑った人が旅立った。

なりた、かっちゃん、
私を愛し、私が愛した人たちよ
あなたたちは神なのか
神になったのか
だから私の問いかけに答えないのか

一人、また一人、あちらに行き
やがて、私の親しい誰もが私の問いかけに応じなくなる

さよなら。
ありがとう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です