麻酔科2

その人はfTURに来た患者であった。前回も同じ腎結石で来院して、その時は尿管が細くてカメラが通らずステントだけ置いて終わりになっていた。

つまり最近に全身麻酔をかけた記録があったので、その通りにやればよいということだ。

いつものように薬液を注射器に吸って準備していた私は、唐突に指導医からこの患者の麻酔を全部自分ひとりでやってみよと言われた。

それは本当は喜ぶべきことなのだろう。全ての研修医は喜ぶだろう。認められてうれしいとか、自分なりにやれてうれしいとか、経験ができてうれしいとか思うだろう。

しかし私は驚懼した。

手順も何もわからなくなり、あわてふためき、酸素飽和度の機械を患者の指につけようとして混乱して、男性看護師に手渡した。その看護師は私を見下したように鼻で笑った。私はああまただと思った。私はいつでも馬鹿にされる。やるべきことがわからず、要領を得ず、学習せず、人に迷惑をかけて馬鹿にされる。

一年目や同期の研修医なら全てうまくやれただろう。

私は男性看護師に軽侮されたと思った。それで過去の古傷をえぐられたように怒りを感じた。

気道確保はラリンジアルマスクであった。私の準備が遅れたためゼリーを塗ろうとしたときに看護師にマスクを持ち去られていた。挿管前に申し出てゼリーを塗り直す失態を演じる。

ラリンジアルマスクはうまく入らなかった。咽頭後壁に先があたりそり返ったのだ。左の人差し指を入れてもマスクの先端にとどかず、そり返りを修正できない。結局指導医が入れた。

とてもみっともないと思う。自分の無能のために恥をかいたと思う。しかし良い経験をしたと思うこともできる。

私はつまらない人間である。

空谷子しるす

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