精神科2

患者の女性がまた飯を食べられなくなった。

彼女はまだとても若いが、小さいころから父親との関係に苦心した人だ。父親は教育水準の高い人で、繊細でしかも体格のよい男性だ。

どうも「ちゃんとしなければいけない」という観念が彼女を小さいころから苛んでいたように私には思われる。父親は弱いところがあり、「ちゃんとした」状況から逸脱するような彼女を打擲した。彼女は音声言語を発せなくなり、自傷、自殺企図が発生し、彼女が言うには複数の人格が彼女内に出現した。

彼女は東田直樹さんが自分に似ていると言うのだ。

難しい文章は書けるが文章を読んで理解することが困難である。知的な障害があるとみなされるが算出されたIQに見合わぬ情報を取り入れたり発信したりできる。東田直樹さんも自身の使用する語彙が豊富なことから周囲による文章の捏造を疑われることもあるようだ。彼女もまた、複雑な文章を読めるのに何故言葉が理解できないふりをするのか?不動産屋とメールでやり取りするのに慣用句も漢字も使うのになぜ普段ひらがなの曖昧な書き言葉を使うのか?本当は自らの症状を偽るところがあるのではないかと時に疑われる。真実は正直なところ私には分からない。しかし彼女が自分はこうした人間だと思うのなら私はそれでよいと思う。彼女は「そうした人間」なだけなのだ。あとは彼女が苦しみ過ぎぬ程度に世の中と折り合いがつけばよかろうと思う。

彼女はしばしば尿閉になるかと思えば、失禁してしまう時期もあった。自らの意識か無意識か、下部尿路は意のままにならぬようである。そうして精神的な負荷がかかると心窩部痛が出現する。ネキシウムやレバミピドを指導医が用いても奏効せず。ブスコパンもあまり効かない。一、二週間ほどすると収まる。EEGにも著明な所見はなくバイタルの変動もない。

この間から彼女は外出訓練をするようになった。しかしそのことが彼女を不安にしたようだ。外出自体も彼女に負荷を与えたが、さらには一人暮らしやグループホーム暮らしのことを考え、彼女はどうも自らの容量を超えた重責を得たようだ。再び心窩部痛を訴え、呼びかけても反応しない。

私は指導医に頼り、自らの遅鈍な頭脳で勉強を進める他にない。

看護師をはじめとした周囲が私を軽蔑している気すらしてくる。

「おいっ貴様医者なんだから患者を救わねばならんぞ。それができんオツムと体力しかないならば直ちに医者をやめよ」

かかることを言う内科医は多い。これは真実である。

しかしながら真実は正しからず。私は神にのっとって進む。

基本的に神様の言うことしか聞かぬ。

空谷子しるす

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