患者さんのことなど 1

その方は肺炎と心不全を患っておられた。

大正うまれであって、戦争を経験されたようなのである。

「ようなのである」とは、本人が認知症なので、また発声がいささか不明瞭なので、はなしがよくわからぬのである。

「南方で航空隊やったんよ」

と、その方は仰った。

「兵長やったんや。飛行機の整備をやっていた。二等兵から兵長になるのは、並のことやないんよ」

私は旧日本軍のしくみに明るくないが、一兵卒が兵長になるのは、たしかに大抵のことでないように思われた。

15歳でバルブ工場につとめたらしいのだ。

バルブの中の溝を、手作業で削っていたらしい。

その技術力が上官にかわれたのかもしれない。

水道管やバルブは、私の研修地の名産である。

「あたらしいバルブを、開発せなあかん」

彼の「あたらしい」ことへの情熱は強かった。

「ふるいものと、あたらしいもの、そのいれかわりが難しい」

先のいくさから、とにもかくにも日本は変わったし、世界は変わったのであった。

べつに欲しいといったわけでもないのに携帯電話が出た。パソコン、タブレット、スマートフォンに、そうした高価なものがなくては生きていけぬ習いとなった。

バルブも、今は彼の言うような古典的な削り出しでは作らなくなったようだ。

「この◯◯(患者さんの名前)がいたということを忘れないでください」

彼は歯のない顔で笑った。

そうして彼は私の手を取った。

「えい!えい!」

彼は私の手に、みずからの手を勢いよくなんども重ねた。

それはなにか、かたちにならぬものを渡そうとしているかのようだった。

しかし、それがなんだったのかは、いまだにわからぬままだ。

空谷子しるす

Iが過剰

消耗している.かつて私は自尊感情の塊.それが今は,この荒れた部屋の中身が私の思路思考そのものになった.どうにも言葉が重なる.寝ていても,「To Do リスト」が頭をよぎって目が覚める.本当にそれらはTo Doなのかな.

とにかく,と打ってそれを消した.どうして消したんだろう.兎に角兎に角,どうしてうさぎにツノなんだろう.一々気になってしまう.

消した理由は自分で分かっていて,「すべき思考」とか「Tunnel Vision」とかでまとめられる概念と近いようなそうでもないような,自分を急き立てるような言葉でそれが嫌になって消してしまった.

あと10分で2021年6月1日の22時になる.書いている間に,通り過ぎる.今自分

また手がとまったので,思い立ってそとにでた,夜風がきもちよかった.自動販売機でジュースを買って飲もうと思って出て,実際そのようにした.自動販売機でジュースを買う行為は愚の骨頂.利便性を考慮しても高すぎる買い物だ.それでも今の自分にはスコールが必要だった.愛のスコール(マンゴー).初めて飲んだ.このわざとらしいマンゴー味!(・・・元ネタわかるかな?)

Q先輩がうつになったと教えてくれた.とても苦しいとおもう.この仕事は様々な能力を試される.知識,技術,必要に応じて寝ないこと.眠気を我慢するのは自分にはとても苦痛だ.興奮しているときはいい.興奮して眠くないのは一項にかまわない.ただその次の日とかに後悔することになる.自分を苛む人は真面目な人だ.自分はそこまでストイックになることができない.それはそれでまた,悩むことになってしまう.『生まれつき僕たちは悩み上手にできている』(長い坂の絵のフレーム,陽水).

どうしてどうしてと,おもってもきりがない.ラインの通知がたくさん来ているのは分かっている.でも今はまずは,ここにこうして言葉を・・・書いていくことがきっと何かしかに導いてくれるはずだ.それは自分で自分を選択していくことだ.

もう一度,To doから整理していこう.

その後,返信しよう.

そしたら明日もあるし,寝よう.

(H)

追記

部屋で欲望したスコールというシニフィアンが対象aだったのでしょうか?・・・間違っている気しかしない・・・

おいしみがたまる

5歳娘
朝食後、幼稚園にでかける前のこと
娘「ねえ、パパ、梅の実食べてみようよ」
父「うーん、ちょっと早いんじゃないかなあ、砂糖もまだ溶けきってないし」
娘「え〜食べてみようよ」
父「じゃあ、幼稚園から帰ってきたらちょっと食べてみよっか」
娘「わ〜、おいしみがたまる〜〜〜」

素寒居士