専攻医3

兄が不快だという。両家の顔合わせの日取りを、彼女の都合のみで決めたかと疑ったからだという。

母も不快だという。妹家族へのお持たせを用意すべきかとの母の問いに、彼女が「それでいい」とぞんざいに答えたと思ったからだという。

ふたつとも私の文章がぞんざいだったのが原因だ。兄には顔合わせの日取りの候補日だけ伝えて来ることができるかどうかのみ伺った。候補日を決めた経緯を書かなかった。私たち二人の休日が重なる日がそこしかなかったことを言わなかった。

母には彼女が恐縮していたことを伝えなかった。

雨が降る京都は蒸し暑くなってきた。

病棟ではさまざまな患者の子らが、それぞれの事情を抱えている。その親たちも、それぞれに疲弊し、あるいは張り詰めた感情を抱いておられるように思われた。

当直をこの日とかわってほしいと二人の医員から相談された。小児科は小児科の当直と各診療グループの当番がある。シフトが複雑に感じる。

雨が降る。

私は彼女の姪に贈るためにポケモンセンターに歩き、御所八幡、六角堂に詣でつつ、街中を歩いた。

街は人間と家とが立ち並んで、しかも京都らしい取り澄ました感じがあって厭気を感じさせないところがかえって油断ができない。

物事の複雑さはいよいよ増してきたように思われる。「ふつう」の医師ならこの程度の複雑さは容易に乗り越えられるのかと疑う。

私は疲れた。病態や治療が把握できないことが困る。

歩けたのはよかった。室にこもっていれば、そのまま動かなかっだだろうから。歩いたほうが少しは頭が良くなると期待するから。運動したほうが頭は良くなると精神科医のyoutuberが申していた。すがれるものにはすがりたい。

山が雨で煙る。あの山は大文字山、しかし本来の名前は別にある。あの山のふもとには熊野の那智社があり。熊野の大神様、何卒病棟の子らが助かりますように。私がよい小児科医となれるほどの知恵と力をお貸しくださいますように。彼女と睦まじい暮らしをしていけますように。大切な人たちが幸せでおれますように。

空谷子しるす

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