当直中に病棟から電話があった。患者さんが亡くなったので死亡診断してくださいと言うのだ。死亡診断書は主治医の先生が書いていてくれて、日付と署名だけでいいです。
救急が落ち着いてから行くと、ご家族と患者さんと看護師の方々がいた。
おおここだここだと私が言うとご遺族はこっちです先生、と言って微笑んだ。
はじめてお会いした彼は亡くなった人特有の黄色い皮膚をしている。痩せており、頭蓋骨のかたちのままの顔をしておられる。
私は死亡診断をし、たまたま手持ちの時計がなかったので看護師さんの時計から死亡時刻を告げた。
コロナの感染防御をしたまま、私は地下に随伴して患者さんを見送った。
私はまた救急に戻った。
私はいまだに彼がどんな人であったかを知らない。
空谷子しるす